家も住む人とともに成長する

 若い新婚早々の人たちに向って、先先のことをよく考えて、といいたいのは、要するに、そういう若い家庭というものは、子供が生れることによって非常にかわった内容をもつようになるからです。子供が何人生れるか、それによって家は変わります。
 雑誌などを見ていると、よく成長する家の案というのが出ています。結婚した時にまず家の一部分をたて、子供が出来るにしたがって、順次建て増していくプランニングですが、こういうものも、プランニングの上の一つの遊戯に終ることが多く、そう予定通りに実行できないのが普通だと思います。
 では、どうしたらいいか。私は、そういう時機にあわてて家を建てることをせず、アパートか何かに当分住み、子供の数が一応きまったところで、家造りにかかるのが最良だと思います。また、そういうアパートで一応自分たちの生活を訓練し、家の中における生活とはどんなものであるかを充分経験してから、家造りにかかった方が間違いがないと思います。

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 こういうことを考えあわせると、昔は実に都合がよかった。昔というのは太平洋戦争前のことだが、その頃は、まだアパートが発達しない代りに、どこの町内にも三軒や四軒の貸家は必ずあったものです。生活の変化にともない、拡大にともない、貸家から貸家へと移ってゆけばよい。
 その貸家というのは、もちろんすべて畳をしいた和風住宅です。この和風住宅というものは、どこが居間とかどこが寝室とか、そんなことの全然きまっていません。何だかつかまえどころのないなまこのような家だけに、住み手によってその家はどんな風にでも使いこなされる。それがよかった。
 子供を育てつつ、およそ一年に一軒の割で貸家から貸家へと移って行った時代がありますが、その味は今も忘れられないものです。
 一軒の現代住宅が、子供が生れ、増え、育つにしたがって、どんな風に変ってゆかなければならなかったかの実例を紹介しましょう。
 新婚の夫婦のためにつくられた家で、敷地五十坪、建坪約十七坪の平家です。
 西側の角から家に入ると、そこが一寸した玄関の土間で、取次には外套入がついています。その奥が居間でここが生活の中心、居間につづいて食堂、台所があります。空気的にはこれらの三室は一つで、多少屈曲したリビングキッチンということもできます。その東側に六畳の寝室をとり、丁度その裏にあたる部分に夫婦の書斎があります。奥が夫の書斎で、手前の小室が実の書斎である。無理なプランだが、建てるとき、妻になる人がたとえどんな小さい室でも自分だけの室をほしいといったために、こんなことになっているのです。
 便所、洗面所、浴室、それらは一列に西北側にならんでいます。この家の欠点は寝室が便所や洗面所から離れていることだが、それでも夫婦二人きりの生活にはそれほどの支障がなく、一応便利に生活していました。
 やがて子供が生れ、それがはいはいし出すようになると、六畳の寝室は昼間子供部屋をかねることになりました。その頃になると、奥さんはとても自分の室になど落ちついている時間のないことをさとり、ここは御主人の書斎の一部として吸収されてしまいました。
 それから三年ほどして次の子がうまれ、次の年に年子で、もう一人うまれました。子供三人です。こうなると、六畳の寝室は夜となく昼となく戦場のようなさわぎで、とても夫婦の落ちついていられる場所ではありません。そこで東北側に多少の敷地の残っていたのを利用して、増築することになった。
 つまり、六畳の先の三畳強の室が子供のあそび部屋、それとともに書斎も拡大されました。書斎にはそれでも足りないほどの書物や道具がつまった。
 それからまた三年ほどたった。上の子は小学校、下の子二人は幼稚園へゆく年齢に達すると、また、家中がちらかり出した。三人の子があばれ廻るには、この子供室は狭すぎるのです。そこで第二回の増築をした。
 これによって、まず居間は五人家族に充分なだけの広さに拡大された。六畳と三畳の前に廊下ができたことによって、二つの室は独立性を得た。やがてこの画室は三人の子供の室としてつかわれるでしょう。玄関先の空地を利用してつくった四畳半は、今応接室兼大人の逃げ場所になっているが、もすこし子供が成長すれば、ここを寝室にするよりないでしょう。
 このようにして、この家は今曲りなりにも一応のバランスを得ています。もちろん、無理な増築のためにいろいろの欠点は生じているが、しかし、とも角まともな生活ができるような形にはなっています。
 家とはこんなものなので、その家族の成長とともに、その形をかえてゆかないと、かっては便利な使いいい家だったものが、いつの間にか、不便でにっちもさっちもいかない家に転化してしまうことがあるのです。
 考えてみると、この家も最初敷地の横に増築できるだけの余地を残しておいたのは賢かった。しかし、もしこれの建坪をへらし、二階建としておいたら、もっと具合のいい増築ができたかも知れない。最初建てるとき、そこまでは知恵がまわらず、こんな狭い敷地にあっさり平家建を建ててしまったのは、若気の至りだったともいえます。

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