いい家を造るコツ

 むかし、家を造る仕事の責任者は大工の親方でした。棟梁といった。その棟梁が工事を請負い、大工仕事をする傍ら、連絡のある左官屋や瓦屋や建具屋を使って家を仕上げていったのである。いうまでもなく、設計も棟梁の仕事でした。現在でも数寄屋普請などはこのやり方で行われることが多いが、江戸時代には神社でもお寺でも、芝居小屋でも何でも彼でもこの流儀で行われました。つまり職人以外に建築を専門とする技術者がいなかったのです。
 明治時代に入って、そういう棟梁の中で経営の才のある人が建築会社をはじめました。現在の大建築会社には大工の家系から生れたものが沢山あります。戦前、建築会社は皆何々組と称しまたが、この組という言葉など、祖先の経歴を物語るものです。そして、建築はそういう会社自身が請負い、大工は瓦屋や建具屋と並んでその輩下の下請となった。下請とは下請負人の意味です。とうなると、工事の采配をふるのは建築会社の社員である現場監督で、それが昔の棟梁のやった仕事をするようになりました。

スポンサーリンク

 現在、中小の工務店でもこういう組織をとっています。われわれは昔からの習慣で、家は大工さんが建てるものと何となく思っていますが、今の大工さんは木工事の責任者であるにすぎません。
 そんな風に、家をつくる組織は昔と今とで随分ちがってしまったのですが、しかし、現実に木をきざみ、壁を塗り、瓦をふく仕事を受け持つのが職人であることにはかわりがありません。
 家を建てるとき、職人について一応のことを知っておくのは、決して無駄ではないと思います。
 まず、職人は月給ではたらくサラリーマンでないということです。では何か、というと、きわめて小規模ではありますが、やはり請負人なのです。つまり、職人は現場監督との間に、この骨組を坪何万何千円で仕上げる、という風に約束し、それに従って働いているのです。
 よく工事の途中で、奥さんが一寸ここをこう設計変更してくれ、などと職人に頼むと、いやな顔をしたり、返事をしなかったり、あとで現場監督とごそごそ囁き合っているのを見るでしょう。もし、それが月給なり日給なりで働く人間なら、そんなことは何でもない。仕事が翌日にのびても、翌日もまた給料がもらえるからである。しかし、ある量の仕事をある金額で請負っていると、仕事のあともどりは直接職人の損になり、だからもめるのです。
 設計変更は決して職人にいうべきでなく、現場監督と交渉すべきです。
 次に、これは若い職人ほどそれが稀薄になってきていますが、職人独得の気質という奴のあることです。年をとった腕のいい職人には、そういう気質のこりかたまりのようなのがいます。
 職人気質はもう誰でも知っていることですが、その中で家の出来具合と大いに関係あることを上げると、大事にしてやれば非常によろこぶ、ということです。サラリーマンのように、皮肉にものの裏を考えるということをしないのです。昔から、職人にはおやつを出す習慣がありますが、それもそういう気質を善用したいための手段なのだと思います。
 今、栄えている工務店を気をつけて観察すると、一様に職人を大切にしている。ことに、腕のいい職人は下へもおかぬあつかいである。その工務店にとって職人は使用人でなく、お宝といった感じです。
 そういう人のいい一面があると共に、職人はまたきわめて算盤高い。これは前にいった部分請負の制度にもよるのですが、普通のサラリーマンにくらべて、どうも金勘定がこまかいように思います。
 私は随分方々の家造りに関係してみたが、大体下町の商家は職人との折合いがよく、山の手の会社員とか役人の家では職人と具合の悪くなることが時たまあります。要するに、山の手の人には職人の気持がわからず、肌が合わないのでしょう。職人は、ロでは自分を卑下していても、サラリーマンのような卑屈さを持ち合わさず、一寸でも軽蔑の目で見れば、内心でただちに反発するのです。
 いい家をつくるコツの一つは、職人を大切にする工務店を選び、工事中、職人を気持よく働かせるように心がけることともいえます。もし、山の手の人たちに、職人は自分たちと別の階級というような妙な潜在意識があったとしたら、まずそれを捨てることです。

住まい暮らし生活
建設業者をどうやって選ぶか/ 有名な建築家に家の設計を頼むのは得か損か/ 見直されるプレハブ住宅/ 中高層住宅では流産しやすい/ 障害者や老人の住める街づくり/ 家を建てるときに一番気をつけなければならないこと/ 家も住む人とともに成長する/ 家造りは伴侶を選ぶのと同じ/ いい家を造るコツ/ 共通の室、リビングルーム居間/ リビングキッチンのおかげで台所が日の目をみるようになった/ 室内にはこんな配慮がほしい/ 楽しい食事の雰囲気をつくるには/ 台所は家の中の工場/ 台所はどの方位が一番良いか/ 働きよい台所を造るには/ 配膳棚と戸棚の設計/ 寝室の独立は生活の進歩/ 欧米の寝室には浴室がついている/ ダブルベットはこんなときには具合がわるい/ 寝苦しい夏の夜を涼しく過ごすための窓/ 和室の場合の寝室/ 居室の照明/ 便所の眺めは体に作用する/ 和式、洋式便器の一得一失/ 便所の造り/ 子供のための部屋/ 子供部屋の広さと方向/ 子供部屋の室内/ 部屋の集まり/ 家の中廊下/ 日本の風土や生活に適合した家/ 木造と補強コンクリートブロック造の長所と短所/ 鉄筋コンクリート造の長所と短所/ 鉄骨造の長所と短所/ 屋根と外装/ 床と天井/ / 近所の人に土地の住み心地を聞いてみる/ 北下がりの土地は買うべきでない/ 地下水と土質/ 日本の風土に合った昔の家/ 田舎家の夏/ 夏と現代の住まい/ 南側の庇は家造りのポイント/ 冬の住まい/ 住まいの暖房/ 暖気と換気、隙間風の防ぎ方/ 保温と暖房/ 暖房のための熱源/ 都市の中心部から閉め出される独立住宅/ 住宅のアパート化/ 高層住宅での生活/

      copyrght(c).住まい暮らし生活.all rights reserved

スポンサーリンク