共通の室、リビングルーム居間

 居間は英語でリビングルームつまり生活する室です。生活するのは何も居間にかぎらず、寝室で寝るのも、浴室で湯にひたるのも生活ですが、居間にそんな名のついたのは、執にぴたりとした名がなかったためでしょう。要するに家族のものが何となくそこに寄り集まっているのが居間なのです。
 西洋の小説を読むと、そういう居間の機能がよく描写されています。夕食後のひととき、家族のものがそこに居て、てんでに勝手なことをしています。主人は新聞をひらき、奥さんは編みものをし、子供は何か手悪戯、おばあさんは老眼鏡ごしに小説を読みふけったりしています。やがて、その中の一人が自分の室へ行ってしまう。しばらくしてまた一人消える。そんな風にして、段々と居間の人気がすくなくなって、主人と奥さんだけになる、といった具合です。

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 欧米流の住まいでは、夫婦は夫婦で、子供は子供でおのおの室をもっています。そういう別に本拠をもつ家族の各員が寄り集まる共同の空間が居間なので、だから、ホテルでいえばロビーのような場所です。何か漠然としてとりとめない一面、静かに落着いた、あたたかい場所でありたいのが居間です。だから、居間の広さとか形とかいうものは、台所の広さや形がその機能からはっきり割り出されるようにはきまらない。それをきちりと割り切って設計すると、味もそっけもなくなってしまうのが居間です。
 体でいったらお腹のようなものです。人間の体は手には手の、足には足の、そして順には頭のはっきりした機能があり、それが形の上にもきわめてはっきりあらわれています。しかし、お腹だけはなにかととりとめなく、ただ平らなだけで、もし臍がなかったら全くのっぺらぼうである。その内蔵する機能が複雑で、しかも多元的なため、造形的に表出されたお腹はかえって平凡になるのだと思いますが、これは全く居間的といえます。
 居間は広い面積を擁して、大体プランの中央部におかれるのが普通です。これも何かお腹の場合とよくにています。
 居間はその茫漠たる性格上、いろいろ他の目的を兼ねることがあります。戦後、きわめて普通になったのは応接室を兼ねることで、ある種の職業の人以外、近頃は客を居間へ通す。客が多くて、それを居間へ通していたのではおちおちと家庭で休養できない人は特に応接室を設けますが、その場合も、昔のように、その室に家中の一番いい場所を提供することはなくなった。絶好の位置は居間のためにとっておかれ、応接室はしばしば北側にもって行かれたり、西日のきつい西側へもって行かれたりします。
 また、戦前のすまいでは特に食堂どいうものを設けるのが普通でした。しかし、食堂は要するに日に三度しか必要でなく、御飯時以外は何となくがらんとした用のない室となるため、近頃はその食堂を台所と一緒にしてダイニングキッチンとしたり、また、それを更に居間と一緒にしてリビングキチンとしたりします。また、居間の一隅に食堂をおいたダイニングリビングとし、台所だけを別に離す場合もあります。欧米の住居はあらかたこの方式によっています。リビングキッチンは日本で発明された言葉らしく、ダイニングキッチンもきわめてまれにしか見当たりません。
 畳式の場合には、茶の間が食堂をかねた居間になります。田舎家では大きな炉を真中にきった、おえ、おいえ、などと称する部分が居間に相当します。田舎家では、家の片側が土間で、一段上って広い板の間があり、その奥が畳敷という三段構えになっています。その板の間と畳敷との境目の辺に炉がきってあるので、ここが居間の中心部となっています。
 畳と板の間の境目に炉をおくということは、家族の個からも、土間から上って来る客の個からも、その位置が便利なためで、炉端が接客の場所でもあることを意味します。炉の一個には客座と名づけられた客の座り場所までちゃんと定まっています。
 寒い土地へゆくと、土間からきわめて近い位置に炉が切ってありますが、これは、土間から土足のまま客が上って来られるように、とのためです。
 客といっても、その中には借金の言い訳に来た小作もいるだろうし、一杯ひっかけて無心に来た有難くない客もいるでしょう。そんなのまで一切をひっくるめて、炉端は接客の場所なのです。
 炉の上の時代をへた自在には、大きな味噌汁の鍋がつる下げられたりします。ここは食事の場所でもあります。
 食事をおえたあとの夜長、炉火には楷がくべたされ、くべたされ、ここは夜話の場所になります。この場合は明らかに居間です。
 家の形式により、その暮し方はさまざまですが、いかなる場合にもプランの中心になるのは居間です。居間としての炉端は、炉という中心物があるためいねば求心的ですが、現代の居間は家族がばらばらに、おのおの別のことをしてもいられるほどの広さを要求されています。

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