日本の風土に合った昔の家

 汽車にのって旅をする楽しみは、窓から田舎の景色を眺めていることです。走りすぎる山の裾、川のほとりに茅葺屋根の田舎家が点々とつらなる。それがその背景の山や川や木や草とよくなじみ、全くのところ、日本も悪くない国だと思います。この風景にスイスの民家をもってきても、シベリアの農家をもってきてもまずい。やはり、日本の山野には日本の家がよく似合う。
 しかし、こういう民家もその家々の暮らしの中にはいってみると、必ずしもいいことばかりではないようです。たとえば、あの炉というものにしても、すでにいろいろの暖房設備の考案されている時代に、あの原始的な採暖方法は合理的といえない。で、事実あの炉のまん中にストーブをすえ、小屋裏に煙突をくねらせて、生活の合理化をはかっている家もずいぶんあります。
 要するに、追い過去に生まれ、長い歴史を通じて育ってきた過去のすまいの形式で、現代とぴったりしない点がずいぶんできてしまったのですが、しかし、そういう時代遅れのすまいの形式にも、万人の認める長所が一つあります。それは夏涼しいということです。ともかく昔の家というものは夏涼しい。その家のまん中にすわっていると何となく涼しく、風が吹きぬけ、夏を忘れてしまうほどです。

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 なぜ田舎家は夏涼しいか。それにはいろいろの理由があるのですが、それを話す前に、人間はなぜ夏暑いと感じるのか、についてちょっと触れておきましょう。
 人間は体温およそ三六・五度をいつも保つ定温動物です。蛇や金魚は周囲の温度とともに体温を変化させて、しかも正常な生活がいとなめる動物だから、気温が少しくらい高かろうが低かろうが、それが苦労の種となることが、さほどない。しかし、人間はそういかず、気温三〇度をこえれば体熱の発散が十分でなくなり、暑い暑いとこぼしだす。暑いときには自動的に汗が出てくる。汗の中の水分を蒸発させ、蒸発熱をからだから奪うことで体温を調節しようという生理です。しかし、空気の湿度が高いとその蒸発が十分に行なわれず、ますます人間はやりきれないむし暑さを感じる。蒸発しない汗はべとべとと皮膚をぬらして気持が悪い。
 こんなわけで、温度が高いと人間は暑いと感じ、さらに湿度が高いとそれにおまけがついてむし暑いと感じるので、暑いとは、休熱を放散したい欲望の満たされない感じです。しかし、もしそこに風が吹いてきたとする。風が蒸発をうながすことは、汽車の窓から出しているぬれたハンカチのすぐ乾くことでもわかる。風により、汗は蒸発し、人間ははじめて涼しいと感じる。涼しいとは欲望の充足感です。
 こんな風に、温度、湿度、風速が人間の暑さの感じを左右する。それにもう一つ熱の帽射という奴があります。夏になると、太陽から、また、やけた庭の木々や土やテラスから幅射熱がきて、人間はこれによっても暑がる。これは空気の温度や湿度と全然無関係で、零下一〇度の空気の中でも、熱いもののそばへよればやはり熱いのは幅射熱の作用です。
 昔ながらの日本の家とこういう空気の温度、湿度、それから風、さらに太陽その他からの幅射との関係について話を進めます。
 まず、温湿度の影響を風によってくいとめることですが、その点、田舎家の中がきわめて風通しよくできていることは実に都合がよい。何もこれは田舎家だけに限らず、日本古来の住まいはみんなそうだったのですが、家の外側のあらかたを縁側や窓にし、室境にあまり壁を設けず、襖障子の仕切りとしていることは、一風通しの点から都合がいいといえます。そして、日本には古来夏になると夏座敷にする習慣があった。夏座敷にするとは、襖障子をみな取りはずし、そこに簾戸の類をたてたり、簾をつったりするのです。そうでなくても風通しのよい家をいやが上にも風通しをよくする習慣で、要するにこれは、夏のむし暑さに苦しむ日本人が長年月をかけてつくり上げた工夫なのだと思います。
 兼好法師は徒然草の中で「家のつくり様は夏をむねとすべし」といっていますが、これは日本人を代表しての発言とみなすことができます。
 そういう風通しのよい家は、ルームクーラーなどによって温度を低下させた室とは、全然別の涼しさです。ルームクーラーの部屋では、よく神経痛になったり、下痢をしたりする人がいるが、これは将来、医学的に解決されなければならない問題でしょう。夏座敷は、自然の現象を巧みに利用して、自然の悪影響を除去する巧みな技術といえます。そしてそれが単なる技術にとどまらず、そのことによって、夏らしい気分を出し、それを楽しむことを日本人は忘れなかった。ルームクーラーは夏を忘れるための技術ですが、夏座敷は夏を夏らしく楽しむための知恵ということができます。

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