夏と現代の住まい

 戦後、日本の住まいは坐式から椅子式に移ることによって、きわめて欧米の住まいに近いものとなりました。欧米のすまいがいわゆる西洋館として日本に渡来したのは明治維新以後ですが、その後長い年月、一般の日本人に全然かえりみられなかったのは、これが日本の風土にあまり適しなかったためだと思います。明治六年、銀座に煉瓦街ができたとき、その二階に移り住んだ銀座の商人たちの不平をいい出した点は、湿気ということと、雨が漏るということでした。その煉瓦街の建物というのは、一階が商店、二階が住宅、今の言葉でいえば下駄ばきの連続家屋なのです。
 雨が漏る点は設計者ウォートルスの手落ちだったと思えますが、湿気る点はこういう西洋館の宿命で、要するに風通しが悪かったためと思います。当時の西洋館は概して窓が小さく、家の中が厚い壁でいくつかの部屋に仕切られているため、風通しがきわめて悪い。おそらく、ヨーロッパの気候が夏に乾燥し、むし暑くないため、特に家の中に風を通す必要がなく、こんなすまいのスタイルが生まれたのだと思います。
 しかし、その後西洋館は次第に形をかえ、近頃のアメリカの住まいには、何か日本風を思わせるような、家中が空気的にほとんど一室になっているようなものまで現われてきました。もちろん、個人の生活を尊ぶむこうの家のことだから、寝室などはしっかりと壁でしきられています。

スポンサーリンク

 戦後の日本の住まいが強く影響をうけたのは、この型の新しい西洋館です。たとえば、リビングキッチンのようなものにしても、空気という面から見れば、台所、食堂、居間の間を仕切る壁をとりはらい、空気的にそれを一室にしたものということができます。この型の家は風通しをよくする可能性が強く、その点日本の夏に向いているといえるのです。
 ともかく、家のプランをつくるときは、それが坐式でも椅子式でも、一応風通しの問題を考えてみることが大切です。夏の風が南側の窓から入った後、どこをどう通って北側の窓から逃げてゆくかを考えてみることです。
 夏は南風だからといって、南側の窓ばかりやたらに大きくしても、北側の窓がふさがっていたら風が通るものではない。要するに、夏の風通しについては、北側の窓と中間部を仕切る壁に目をむけることが大切で、必要があれば間仕切り壁に風抜きの窓をあけるべきです。風抜きの窓としては、床に近い低い位置のものが有効で、鴨居上の欄間の類はそれほど役にたたない。欄間は冬の換気のためのもので、夏の通風には概して無能です。
 もちろん、現代的な家においても、子供室とか便所、浴室とかいったどうしても壁で仕切らなければならない小室は、まず風通しの悪いことを覚悟しなければならない。ただこれらの小室を西側にもっていくことはなるべくさけるべきでしょう。
 一昼夜の気温というものは波を打って変化するが、それが最高になるのは、木造の家で午後二時頃、鉄筋コンクリート造りで午後四時前後、そしてそれが夏だと、暑い西日が西側の窓や壁に照りつける時間とちょうど一致するため、こういう位置の小室の室温は想像以上に上昇する。もし、プランの上から他に仕方のない場合は、窓に竪形フィンをつけ、壁の熱遮断力を増強するなど、防熱の方法を特に講じるべきです。
 次は日射との関係ですが、夏の日をよけるためには、太陽の動き方を一応知っておく必要がある。まず日出、日入の方向ですが、誰も知る通力春分の日には真東から出て真西に沈む。その後、夏になるに従つて、日出、日入ともその方向が、北側にうつり、夏至には真東西よりちょうど三〇度北へよる。
 昔、われわれの祖先は東西南北三六〇度を三〇度ずつに等分し、それに子丑寅卯辰巳午未中西戌亥の名をつけました。真北が子、真南が午だが、その流儀だとちょうど寅の方向から日が出て、戌の方向に沈む。
 その後、日出、日入は次第に再び南へ動き出し、秋分にはまったく春分同様となり、その後さらに南にうつって冬至には真東西より二八・六度南へよる。昔流儀なら、およそ辰の方向から出て申の方向に沈むことになります。
 もちろん日出、日入に近い時間ほど太陽の高度は低くなり、従って家に対して横の方から日がさす。真昼の日は上からさしますが、朝日夕日は横の方からさす。だから、日よけのために庇を出しても、そういう朝夕の口はその下をくぐって横の方からさしこんでくる。こういう横からの日射をさけるためには、ルーバー(竪形フィン)、よろい戸、ベネシガンブラインド、簾などが近頃しき力に使われ出した。竪形フィンとは要するに、奥行が十分あって、間隔のつまった竪格子です。フィンとは鰭のこと、魚の鰭をならべてたてたような格好からその名が生まれたのでしょう。
 それからも一つ大切なことは、春分から秋分に至る期間は、夕日が北へ回って北窓からさしこんでくることです。これがなかなか馬鹿にならない暑さで、それを防ぐため、北窓の一部にも竪形フィンを設けるのが賢明といえるのです。
 次は真昼の日、つまり南方からさす日ですが、これはもちろん夏の間は高い所からさし、冬がくると低い所がらさすようになる。正午の太陽光線が大地の水平面となす角度を「日南中太陽高度」というが、この高度は東京で夏至に七八度弱、冬至に三一度弱、そして春秋分には五五度弱です。東京の緯度は三五度強で、それに春秋分の五五度弱を加えるとちょうど九〇度になります。これはどこの土地についてもそうなるので、春秋分の太陽高度をわすれたら、九〇度からその土地の緯度を引きさえすればすぐわります。

住まい暮らし生活
建設業者をどうやって選ぶか/ 有名な建築家に家の設計を頼むのは得か損か/ 見直されるプレハブ住宅/ 中高層住宅では流産しやすい/ 障害者や老人の住める街づくり/ 家を建てるときに一番気をつけなければならないこと/ 家も住む人とともに成長する/ 家造りは伴侶を選ぶのと同じ/ いい家を造るコツ/ 共通の室、リビングルーム居間/ リビングキッチンのおかげで台所が日の目をみるようになった/ 室内にはこんな配慮がほしい/ 楽しい食事の雰囲気をつくるには/ 台所は家の中の工場/ 台所はどの方位が一番良いか/ 働きよい台所を造るには/ 配膳棚と戸棚の設計/ 寝室の独立は生活の進歩/ 欧米の寝室には浴室がついている/ ダブルベットはこんなときには具合がわるい/ 寝苦しい夏の夜を涼しく過ごすための窓/ 和室の場合の寝室/ 居室の照明/ 便所の眺めは体に作用する/ 和式、洋式便器の一得一失/ 便所の造り/ 子供のための部屋/ 子供部屋の広さと方向/ 子供部屋の室内/ 部屋の集まり/ 家の中廊下/ 日本の風土や生活に適合した家/ 木造と補強コンクリートブロック造の長所と短所/ 鉄筋コンクリート造の長所と短所/ 鉄骨造の長所と短所/ 屋根と外装/ 床と天井/ / 近所の人に土地の住み心地を聞いてみる/ 北下がりの土地は買うべきでない/ 地下水と土質/ 日本の風土に合った昔の家/ 田舎家の夏/ 夏と現代の住まい/ 南側の庇は家造りのポイント/ 冬の住まい/ 住まいの暖房/ 暖気と換気、隙間風の防ぎ方/ 保温と暖房/ 暖房のための熱源/ 都市の中心部から閉め出される独立住宅/ 住宅のアパート化/ 高層住宅での生活/

      copyrght(c).住まい暮らし生活.all rights reserved

スポンサーリンク