冬の住まい

 昔ながらの住まいが、きわめて夏向きにできていることは、良く知られた通りです。よく風を通し、幅射熱をさえぎり、いくら蒸暑い季節であっても、その中で涼しく夏を楽しめる点、他に換え難いものがあると考えています。では冬はどうか、夏の場合と同じように、伝統的な日本の住まいが日本の冬をよくこなし、冬の暮しを楽しいものにしてきたか、というとそうではありません。日本の家というものは、それが田園の中の農家であろうと、京の町家であろうと、桂離宮であろうと京都御所であろうと、冬の寒さのべら棒なことは全く共通だといっていいのです。
 では、どうして日本の家は、そんなに寒さに不用意なのか、ということになりますが、要するに日本の冬がそれほど低温でないことによると思います。日本といっても、東京大阪を中心としての話で、東北地方以北は別問題ですが、まず寒さはそれほどのことはない。数字でそれをあらわせば、東京の最低気温のレコードは零下九・二度ですが、普通は零下三度ぐらいならもう寒い寒いと誰もいい、その程度の低温すらひと冬の中にそれほどあるものでない。そして、一寸寒いと水道管が破裂して大騒ぎしたりするが、それも、日頃概してあたたかく寒さへの用意が不足しているために他ならない。要するに温帯地での寒さなのです。そのため徹底的に冬に立ち向うという態度が家になく、防寒手段が微温的なのだと思います。

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 敗戦のとき、樺太に進駐したソビエト軍は、接収した日本人の家を検査して、まず大壁の中空部に全部土をつめ、天井に厚く土をのせ、それからその中に住みはじめた、という話をきいた。壁天井の保温力を増強するため、そんな妙なことをしたのです。
 天井裏に泥なんかのっけたら、雨漏りのとき、泥水が落ちてくるだろう。そんなことには一切頓着なく、ひたすら防寒手段を講じたところにソビエト人の面目があるので、そういう点、赤ん坊のときから氷の中で育ったような彼等には、とてもかなわないような気がします。
 次に、日本の冬の特徴はどこにあるかというと、非常に乾燥するごと、つまり湿度の低下することで、丁度夏の反対となります。冬になるとシベリアの東部が高気圧に覆われ、そこから吹き出す風は日本海上をこえ、そのときたっぷり含んだ水分は裏日本に雪となって降り、脊梁山脈をこえて太平洋岸に吹き下してくるころは、からからに乾いてしまっています。だから、前に非常に乾燥するといったのはもちろん太平洋岸での話で、裏日本では冬も湿度が高い。
 新潟地方に雪を降らした北西風は、越後三山をこえ、三国峠や清水峠をこえ、上州へ吹き下りて来るときは、もうからからに乾ききっている。それが嬶天下と一緒に上州の名物となっている空っ風です。
 同じ温度の空気でも、湿度が低く、しかも風となってぴゅうぴゅう吹くときは、人の感じる寒さは格別です。夏の高温無風状態のむし暑さがやりきれないように、冬の低温有風状態の寒さは身を切るごとくです。凩という言葉は、まざまざとそういう北西風の厳しきを表わしています。
 こんなわけで、大ざっぱにいって、日本の冬の寒さの根元をなすのは、湿度が低くて風がある点だといえるのです。
 風が強いといっても、ひと冬中はげしく季節風が吹いているわけではない。風がないで、うらうらとした冬日が家の奥までさしこんでくる日だってすくなくはない。そんな日に、縁側で日向ぼっこでもしていれば、冬の有難さをしみじみ感じたりする。要するにこんなところが温帯的なので、金輪際冬を仇と考える気持にならないのです。そのため、住まいにおける冬の構えがいい加減になってきたのではないでしょうか。
 兼好法師は、家のつくり様が夏をむねとすべきことを述べたあとで、「冬はいかようにもなる」とつけたしています。冬は何とかすごせるものだ、という意味ですが、それは坊さんやなにかならそうにちがいなく、炉火にでも手をかざして日をすごせばいいでしょうが、現代の住まいの中は、冬のさなかでも結構用事が多い。かじかんでいては暮らしがなり立たない。夏と共に「冬をむねとする」家のつくり方が大切になった所以です。

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